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REPORT

「遠州一黒しゃも」に秘められた、至高の味わいとストーリー

河守康博さん
〈鳥工房かわもり〉代表

「遠州一黒しゃも」というオリジナルブランドの地鶏を、
たったひとりで育てている人がいる。

数多の料理人たちが認める、その味は、
ただの畜産の枠を超え、
何かにチャレンジする者のあるべき姿勢を教えてくれる、
力強さとドラマテッィクさにあふれていた。

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午前10時。待ち合わせ場所にいたのは、よく吠える犬だった。
鶏舎からすこし離れた場所にある犬小屋。それを覆うように、農具を仕舞うトタン屋根の道具小屋がつくられている。どちらも手づくり? のような気がした。どんな人なのだろう、と思った。

辺りを見回す。まだ姿はない。時計に目を落とす。とつぜん声がする。

「いや、お待たせしてしまって」

振り返ると、ニット帽に手を当てながらぺこりと会釈をする笑顔の老人が、いつの間にか近くまで歩いてきていた。〈鳥工房かわもり〉の河守康博さん。その様が、風の中から現れたみたいで、ちょっとおもしろかった。茶目っ気のある人。それが一つ目の印象だった。

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「地鶏を飼いだしたのは10年くらい前でね。きっかけは人に勧められたからなんだけど。それまではずっと鶏卵。30年ちょっとかな。工場をやりながらね。鶏はもう、50年近く飼ってる」

河守さんの言葉が、タイムマシーンさながら、するすると過去をさかのぼっていく。しかし、懐かしむ素振りはない。どうしてか、やけにあっさりしている。

「ホントは隠居してみんな悠々とゴルフとかやる歳なんだけど、自分にはできんなと思ってね。これ(仕事)ばっかりやってる。遊びなんてやってもツマンナイよ。働くことが楽しいんだ。ゴルフでいちばんになるより、鶏でいちばんになるほうがいいじゃない? 人ができないものをつくってみたいんです」

実直。それがふたつ目の印象。そしてそこまで聞いて、理解した。河守さんの目はいつも、未来へと向けられている。過去にさほど興味がないのだ。御年73歳。いまだ果敢なファイティングポーズを崩さず、チャレンジを続けている。

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「毎年、あれこれ育て方を試してるんだよ。ちょっとでもおいしいものを食べてもらいたいからね。研究して、実践して。それの繰り返し。はじめのころよりは、だいぶ味がよくなったと思ってるんだけどね」

飼育小屋のサイズ、1匹にどれくらいのスペースを与えるか、日当たり──。ささいな環境のちがいで、鶏の肉質は大きく変わってくる。適度な運動量を維持するために、遮光ネットを張り、自前で小屋を建て替える。聞けば、6棟ある鶏舎は、すべて手づくりだった。どうすればよりおいしくなるか。10年間、ひたすら追求する日々。

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始終説明するより、食べてもらったほうが話が早いと、河守さんが一黒しゃものタタキをつくってくれた。驚かれる方もいるかもしれないが、鹿児島、宮崎などの南九州では、地鶏のタタキはどのスーパーにも必ずあるほど一般的。皮面をしっかり焼き、身はあぶるだけ。ブロイラーでは成し得ない、もっともストレートに鶏の旨味が伝わる調理法だ。

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「タタキなら、メスのほうがジューシーさを楽しめるんじゃないかね。オスは串焼きとかが最高。この前『この鶏肉は、しっかり焼いたり揚げたりしたときに真価が出る』って言ってた人もいたな。ま、好き好きだけどね」

極上。その一言に尽きるおいしさ。鮮烈な鶏肉の凝縮された旨味が、噛みしめるたびにジュワッとあふれ出てくる。脂身のない高級な牛フィレのステーキ、の鶏バージョン。奥行きの深い肉の味わいと芳醇な香りが口のなかで弾けて、思わず顔がほころぶ。「おいしいでしょ?」と、河守さんが今日いちばんの笑顔を見せた。本当に美味い食事は、場の空気さえもあっという間にやわらげてしまう。

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「餌はね、もち米。なんでかって、うるち米よりおいしいでしょ? おいしいものを食べさせて、マズイものができるわけがないっていう道理。それをベースに、栄養バランスを整えるわけです。御前崎産の鰹節とかの粉末を混ぜたりして。配合は独学。誰が教えてくれるもんでもないからね」

鰹節の削り粉、海草粉末、ぬか微生物。鶏の獣臭をカットし、強い旨味を引き立たせるオーガニックな飼料をひたすら研究してきた。山紫水明、豊かな御前崎の恵みが、しゃもに上質さとオリジナリティを与えている。

「これが飼料、こっちが鰹節。サバ節も入ってるかな。地元のいい食材を一生懸命探したんだよ。それで生産者の人たちに協力してもらって。既製品じゃ、おもしろくないからね。写真? いいよ。撮っても。見たってマネできないから(笑)。さんざん改良を重ねてきたけど、まだまだ完成じゃないね。もっともっとよくできると思ってる」

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すでにかなりの水準に達しているはずだが、河守さんが目指すのは、さらに上。常に新しいアイデアがあり、次のステップの準備をしているという。引退など、微塵も頭にない。そのあくなきバイタリティの源は?

「単純に……ヒマつぶし……かな(笑)。年金で優雅に暮らすほうがいいのかもしんないけど、もったいないじゃないですか。テレビ見ても1日、ゴルフやっても1日。どうせやるなら、ねえ? 自分がいちばん楽しいことをやってさ、それで誰かがよろこんでくれれば、なおいいしね。どの道、命は限られているんだから」

やりはじめたころは、「何ですか、その鶏?」と世間から相手にもされなかった。いまではそれを、都内の高級レストランや市内外の飲食店がわざわざ買い付け、メディアから注目され、御前崎の特産品のひとつに数えられるまでにした。それも、たったひとりで。

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「じゃあ、そろそろ……」取材の終わりを告げると、河守さんは丁寧に頭を下げ、また作業へ戻っていった。帰り際に、「いつか、この辺でももっと地鶏のタタキを食べてもらえるような食文化をつくれれば」と夢を語ってくれた。今後は、ご子息の奥さんが手伝ってくれるかもしれないという。今は1,500羽、一般向けは鶏舎脇の店舗か道の駅(御前崎)での直売のみだが、今後はネット販売も視野に入れているそうだ。

遠州一黒軍鶏。
これからますますネームバリューが高まっていくであろうこの鶏を、よりたくさんの人に味わってほしいと、切に願いたくなる。〈鳥工房かわもり〉で過ごしたわずかな時間は、それほどすばらしい体験だった。

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写真:松本幸治 文:志馬唯

鳥工房かわもり

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