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REPORT

下馬評をくつがえし、センセーションを巻き起こした剣道部を支えるもの

大本昌義さん〈和風ビストロ 夢想屋〉店主
菊池竜平さん〈池新田高校剣道部〉顧問

スポーツにはドラマがある。
それは重々承知していても、
こんなにロマンに満ちた筋書きは、
青春モノの映画ですら採用するのをためらうのではないか。

部員数たった2名だった剣道部が、わずか3年で
設立以来初となる全国大会出場の切符を手にするなんて。
それも、高校創立100周年を迎える年に。

偉業を成した若者たちと、それを導いた教員、
そして彼らとかかわりの深い人情味あふれるオヤジさんに
スポットを当てる。

Episodes
1.居酒屋の高校生
2.スーパースターなんかいなくても
2.スポーツ、そして武道の光

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1.居酒屋の高校生

「支えてくださるすべての方に感謝して、いただきます!」
BGMにジャズが流れるその居酒屋では毎晩、およそ“酒場”に似つかわしくないフレッシュな声が響く。テーブルには大量のおかずと、どんぶりに盛られた白飯。それを囲む4、5名の若者。全員が坊主頭で、市内の高校の名がプリントされたジャージ姿。未成年なのは明らかだ。

あるとき、店の前に止めてある、同じようなスポーツバッグを積んだ数台の自転車を不審に思った警官が、店内に入ってきた。まさか高校生が酒盛りをしているのではないか。「バカ言っちゃイカンすわ。ウチの店にそんなヤツがいたら、頭ひっぱたきますわ(笑)」とその店、〈夢想屋〉の大将、大本昌義さんは一笑に付した。

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食事をしていたのは、御前崎市唯一の高校、池新田高校の剣道部員たち。大本さんは〈夢想屋〉の営業のかたわら、御前崎で下宿生活をしている彼らの夕食を請け負っているという。

「まあ、みんな孫みたいなもんですわ。県内のあっちこっちから、友達もいない知らん土地に一人で出てきて、なんだかんだ立派だと思いますよ。僕も九州の小倉から地元を離れてきているし、やっぱ情にほだされるじゃないですか。だからメシぐらいは、ねぇ? 不自由させんようにと思って」

人生でもっとも食べ盛りの男の子たちに、たらふく食べさせる(ご飯はお変わり自由)。肉や野菜を切るにしろ、米を研ぐにしろ、営業の“ついで”では済まない量のはずだ。調理ともなれば、なおのこと。栄養バランスだって考えるだろう。しかも定休の日曜を除いては、ほぼ毎日ときている。にもかかわらず「いやいや、言うても“まかない”みたいなもんですから」と、さしたる手間ではないように笑う。そうやって大本さんが自分のことを話すときの口ぶりはぶっきらぼうで、義理人情の厚さが伝わってくる。

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「僕がこんなことをはじめたのも、すべては顧問の先生の人柄のおかげ。もともとお客さんでちょくちょく見えてて。まだ若いけど、できた人でね」。1食ワンコイン。月に20食でも1万円。およそ利益などないであろう金額で炊事を引き受けている理由を、大本さんはそう話してくれた。

2.スーパースターなんかいなくても

大本さんのほれ込む部員たちと先生の姿を一目見ようと、池新田高校に足を運んだ。午後6時。冬の空はとっぷりと闇に覆われている。グラウンド脇にある武道場に近づくと、威勢よく飛び交う掛け声が響いてきた。

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ほんの3年前には部員数が2人に減り、廃部の危機に追い込まれていたこの剣道部は、創立100周年を迎える2018年に、設立以来初の全国大会出場というドラマを生んだ。それも下馬評をくつがえす大番狂わせで、強豪校に勝ち切ったという。何か特別なトレーニングでも積んだのだろうか?

「剣道の稽古は、おそらく全国どこに行っても大して変わり映えしません。基本の稽古があって、実戦形式の稽古があるだけです。注意しているのは、一人ひとり、その子にあった指導をすること。もちろん個人の差はありますが、僕はどんなにチカラのない子でもチャンスはあるし、努力さえすればよくなると思っています」

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顧問の菊池竜平さんは、そう言った。剣士らしく、堂々とした振る舞いで。特別なことなど何もない。派手な練習法もなく、真摯に基本を繰り返すのみ。そもそも面、胴、小手、突きしか決まり手がないのだ。だからこそ、どこまでとことん自分と向き合えるか、そして足りないものをひたすら磨けるか、それしかないのだろう。だとするなら指導者に必要なのは、的確に欠点を指摘し、改善に導ける能力になる。それでも最終的には、本人の努力次第だ。菊池さんの短い発言から、やはり剣道は武道であると、つくづく感心してしまった。

「ウチの部にスーパースターはいません。みんな、中学でスゴイ実績を上げたわけでもない。だから僕は“負けない”剣道を教えました。一本さえ取られなければ、勝機は見えてくる。これからはそれを“勝つ”剣道にシフトしていくつもりです。勝利至上主義に聞こえるかもしれないけど、子どもらがその結果で、自信になったりだとか、ちょっと考え方や人生が変わったりだとか、決して悪いことではないので、勝つための指導は続けていきたいと思っています。ただ、上に行けば行くほど見られる立場になりますし、天狗になってはいけないので、やっぱり最後は謙虚な姿勢で初心を忘れずにいたいです」

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部活を終え、部員たちが〈夢想屋〉に着くのは7時半を回る。なかには、そのまま外部の道場へ出稽古に向かう生徒もいる。御前崎周辺は剣道が盛んで、社会人ふくめ優秀な指導者が多いそうだ。近隣企業には、全国で上位を争う強豪チームもある。「そういった方たちが、よく指導にみえてくださいます。強くなれるのは、外部の方たちのおかげも大きいです」。

話を聞いていたら、部員ともども菊池さんたちの口から「外部の方にお世話になって……」、「支えてくださる父兄のみなさまのおかげで……」という言葉が繰り返し出てきた。それはきっと、建前ではない。「御前崎のいいところなら、すぐに言えますよ。人があったかいんです。僕は市外の出身ですが、このまちの田舎特有の優しさみたいなのは、ものすごく感じています」。

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3.スポーツ、そして武道の光

部員たちは〈夢想屋〉に着くと、元気よく挨拶をし、夕食の準備を始めた。配膳から洗い物まで、すべて自分たちでやるのがここでのルールだ。食事中、大将の大本さんが顔を出し声をかける。「コラ! 肘をつくんじゃあない!」。「犬食いをするな犬食いを! 茶碗をしっかりもたんか!」。どうやら部員たちの座る一角は、夢想屋ではなく“大本家”になるようだ。

「僕らができることっちゃあ、うまいメシを食わせるとかね、たまには日曜日に中華料理屋に連れて行ったりとか、それぐらいしかできんし。なんでそんなことしてんのかっつったら、そりゃあね、やっぱ気持ちよ。剣道のことなんかなんも知らんかったけど、それなりに勉強してね。彼らが一生懸命頑張ってると思ったら、おじいちゃんも一生懸命応援してやらんとねって思うわけ。そりゃそうさ、もう身内みたいなもんなんだから」

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そんな夢想屋の大本さんと奥さん、そして地域住民には感謝しきれないと、菊池さんは言う。「全国大会で勝てるようになるとか、目先の目標はありますけど、ふだんの生活態度の差がそのまま剣道に取り組む意識の差につながるので、礼儀作法、心構え、そのふたつは大切にしろといつも言っています。そしてやはりいちばんの目標は、こうやって地元の方々に支援していただいている以上、子どもたちと手を合わせて恩返しができたら、御前崎や池新田っていう名前を広めることができたら、って常々思っています」。

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やがて部員たちは食事を終え、帰路に着いた。「お先に失礼します! おやすみなさい」と、さわやかな余韻を残して。大本さんの奥さんが、入り口でそれを見送る。

練習中、彼らを見ていてあらためて感じた。スポーツ、引いては何事かに励む若者の目には、特有の輝きが宿っている。純粋、と呼ぶような年ごろではないだろうが、そこにはやはりまっすぐなものがある。それがまっすぐであればあるほど、本人の性格とは関係なく、強さとなって表れる。技量の強さ、精神の強さ。いまはまだわからなくても、やがて彼らもその輝きの尊さを知るときがくる。それがすべてではないにせよ、スポーツ、特に武道においては、そのまっすぐさを養うあたりに意義があるような気がした。すくなくとも彼らの幾人かの目には、そう思わせてくれる光が、確かにあった。

これからますます強くなっていくであろう彼らの活躍を、期待したい。

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写真:朝野耕史 文:志馬唯

和風ビストロ 夢想屋

  • 静岡県御前崎市池新田5816-2
  • 0537-86-7144
  • 11:30~13:30/17:30~22:30
  • 日曜定休

静岡県立池新田高等学校