UMICO ウミコ

海のある暮らしを楽しむ。Life&Culture Web Magazine

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REPORT

ココロとカラダに寄り添う、海のまちのちいさな助産院。

おはな助産院 助産師
野口 智美さん

そのホームページには、
こんなメッセージが綴られている。

「あなたと、ご家族と
赤ちゃんの出会いが、
そして、新しいくらしが
素晴らしいものになりますように」

シンプルな言葉の裏には、
このまちでたったひとつの
ちいさな助産院を営む女性の、
とても大きな思いが隠されていた。

新しい命と、たくさんの“ありがとう”が
いつも生まれている。そんな助産院のお話。

Episodes
1.「困ったら、いつでも電話してきてね」
2.おはなメシと一冊のノート

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1.「困ったら、いつでも電話してきてね」

ベテランの産婆さん(助産師)がいる。妊婦に優しそう。あるいは、産むだけのところ。助産院に抱くイメージは、人によってさまざま。というよりは、行ったことがないからわからない人が多い、という方が正しいだろう。実情はどうなのか。

「妊娠、出産、産後まで、赤ちゃんとお母さんと一緒に、ずっと伴走していくパートナーがいるところ、ですかね」

助産師の野口智美さんは、そう考えている。産むのを助けるだけではない。産前・産後の不安定な時期にある母親に寄り添い、肉体的にも精神的にも支えていくのが仕事であると。そのサービスは実にきめ細やかだ。たとえば、妊婦検診の話。

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「うちはお母さんたちに負担掛けないよう、予約時間を完全に分けて、待ち時間がまったくないようにしてるんですよ。検診も1時間ぐらいかけますね。赤ちゃんの状態を診たりするのは5分10分で済むけど、お家のこと、上の子の赤ちゃん返りがどうとか、お姑さんと上手くいかないとか、旦那さんとケンカしたとか、いろいろ話したりして。そういう精神的なものはぜんぶ妊娠・出産に関わってくるから、きちんとフォローしてあげたい。あとは腰が痛いっていったら整体したり(※野口さんは妊婦の苦痛を和らげたいと、過去に整体の資格を取っている)、1時間はすぐ経っちゃいます(笑)」

彼女自身が4児の母であり、子育ての先輩であるのも、お母さんたちが安心して相談できるポイントになっているようだ。

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〈おはな助産院〉のアットホームな雰囲気がそう思わせるのか、エコー(超音波検査診断装置)や出産の際に胎児の心拍数などを計る分娩監視装置など、必要な機器が置いてあることに「え⁉ こんなちゃんとした機械あるの?」とおどろく人も多いという。血液検査などを除けば、出産までに10数回ある妊婦検診の大半を助産院でカバーできるなど、やはり助産院のことは、まだまだ一般的に知られていないのだろう。

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「困ったことがあったら、いつでも電話してきてね」

彼女はいつも、妊婦さんだけでなく、産後のお母さんたちにもそう声を掛ける。「でもやっぱり産んだ後のほうが、相談事は多いですね。『ミルクを飲んでくれなくなった』とか。実家のお母さんになった気分になります(笑)」。通院者が出産を控えていれば、いつ陣痛が来るかわからないから、予定日の前後数週間は1時間以上かかるところ、つまり市外へは外出しない。携帯電話は肌身離さず、眠るときは枕元に。深夜でも2コールほどで飛び起きるそうだ。彼女の趣味はサーフィンだが「海に入るときもスマホは持っていくんですよ」。そのスタンスは、もはやサービスという枠を通り越して、彼女の言う通り、実の家族への思いやりに近い気がする。

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2.おはなメシと一冊のノート

自宅を兼ねているおはな助産院から海岸までは5分の距離。海が好きだという野口さんに、せっかくなので話の続きを海で聞くことにした。

「3人目を自宅出産したんですよ、私。出張専門の助産師さん2人が、5時間くらいずっと付き添ってくれて。その出産がもう、ものすっごくシアワセで。何人産んでいても、陣痛の痛みに長時間ひとりで耐えるのは、やっぱり大変だし不安なんです。そこに旦那さんがいても、痛みに関係ないところをさすったりするし、正直あんまり役に立たない(笑)。それまでも10数年、助産師として一生懸命働いてきたつもりだったけど、信頼できる人が常にそばにいてくれるとこんなにも安心するんだ、楽になるんだとそのときはじめて知りました。目が覚めた気分でしたね。病院だと、陣痛が来ていてもたまに様子を見に行くだけで『もうちょっと痛くなったらまた呼んでください』なんて言って、別の仕事に戻ったりしてましたから。でも知ったからには、私も彼女たちのように働きたいなと。それが助産院をはじめたきっかけですね」

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そのシアワセを、ほかのお母さんたちにもぜひ感じて欲しいと願う野口さん。おはな助産院では、産後に入院する数日間、家族も一緒に宿泊できる。「ウチは母子同室なので、面会しに来て赤ちゃんに会えなかった、なんてこともありません。宿泊している旦那さんはふつうに『ただいま』って帰ってきます(笑)。産まれてからずっと同じ部屋なんて大変そうってよく言われますけど、赤ちゃんが泣いててどうすればいいかわからなければ手を差し伸べますし、これからの生活に必要なことをすこしずつ学んでいけるようにしているので、初産でも退院後に困ったという話はほとんど聞かないんですよ」。

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ふだんの暮らしの延長にある、出産。その向こうにある、シアワセ。それをできるだけ自然なカタチで提供したい、必要なことはサポートするから。そんな思いは、野口さんお手製の院内の食事、通称“おはなメシ”にもよく表れている。「栄養バランスはもちろんですけど、とにかく品数を豊富にしないといけないし。献立があるわけじゃないので、その日のお母さんの体調も見ながら、これを食べたほうがいいかなってものをつくっています。メニューだけは、いつも難産ですね(笑)」。あれこれ考えながら、できるだけおいしいものを。彼女の手料理は、入院中のお母さんたちの最大の楽しみのひとつとなっている。

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おはな助産院には、産後のお母さんたちがここでの体験、感想を綴ったノートがある。誰でも見ることができ、入院中のお母さんが読みはじめれば「おもしろすぎて眠れなーい!」となってしまうくらい濃密なシロモノらしい。院へ戻り、数ページ拝読させてもらった。

経験者が語る、病院での出産とのちがい。初産への不安と、野口さんの励まし、心強さ。型どおりでなく、自分の望む楽な姿勢で出産させてくれて、とてもハッピーな気持ちになれたこと。そしておはなメシについて(かなりの評判!)。赤裸々な体験記は、これを読みに来るだけでもおはな助産院に来る価値があるのではと思わせる。どれも読みごたえがあったが、印象的だったのは、誰もが一様に、野口さんへの心からの感謝を綴っていたことだ。

「これを読むとね、辛いときでも『頑張んなきゃ!』って、元気になれるんです。病院に勤めていたころは、取り上げた赤ちゃんやお母さんの顔もしばらくすれば忘れちゃったけれど、ここでは誰がどんな風に産んだとか、産後にこんなエピソードがあったとか、みんな覚えている。でもホントは助産師ってそういう仕事なんだなって、いまは思えるんです」

そう言ってふっと笑った彼女の背後には、ここで出産した家族の笑顔にあふれたたくさんの写真が、壁一面にかけられていた。

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写真:朝野耕史 文:志馬唯

おはな助産院