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REPORT

仕事もプライベートも充実させる⁉ とあるイチゴ農家夫婦のライフ&ワークスタイル

渡邉裕介さん〈LACO STRAWBERRY FARM〉園主
栗本めぐみさん〈KURI BERRY FARM〉代表

新しく農家になる人を“ニューファーマー”。
農業にいそしむ女性を“農業女子”。
そんなキャッチーな響きをよく耳にするくらい、
若者が農家になる機運が高まりつつある。

あくせくした都会から、
のんびりした田舎へ移住し、
農業しながら暮らす。

それはとてもステキなことだけれど、
本当に大切なのは、その先でどういうライフスタイルを築くか。

Iターンしてイチゴ農家になり、
「この道を選んでよかった」と
ほがらかに笑う夫婦のもとを訪ねた。

Episodes
1.イチゴ農家、真冬に海外旅行にいく
2.新しい世代、その次の世代

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1.イチゴ農家、真冬に海外旅行にいく

農業を、とことん楽しんでいる人。
〈KURI BERRY FARM〉の栗本めぐみさんに抱くのは、そんなイメージ。「ストレスはサラリーマン時代の10分の1ですね」。以前、とある雑誌の取材でお会いしたときのその言葉が、とても印象にのこっている。

「でも、特別なことは何もしてなくて、大きなちがいは勤め人から経営者になったくらいで。やっているのは、営業マン時代に経験したことをそのまま落とし込むとか、自分で工夫したり、人のチカラを借りたり。そういうちいさなことの積み重ねです。農家はよく、特殊な仕事だって思われがちですけど、ふつうの仕事と変わらない。すっごくラクになる魔法の技術とかがあるわけじゃないという点においても」

農業もふつうの仕事。特別な仕事ではない。その考え方にハッとさせられる人は、すくなくないだろう。しかし県内ではわりと都会的なイメージのある静岡市で育ち、高校生から農家が夢だった彼女は昔から──両親はふつうの会社員で、どこかに余分な土地を持っているわけでもなく、ぜったいムリだからやめろと周囲にさんざん止められていたころから──当たり前にそう考えていた。

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大学を卒業して8年間、東京で社会人として経験を積んだ。夢に変わりはなかったが、農業を単なる農耕や栽培ではなく、ひとつの“企業”としてとらえていたからこその選択。青果市場から商社へ。そして次のステップを考えたとき「そろそろ、いいかな」と、静岡県の新規就農制度を利用し、御前崎でイチゴ農家になった。

経営として農業を考える。それは、ゆったりと自然と向き合いながら作物を育てる“LOHAS”的な暮らしにあこがれる都会人からすれば、いささか冷めたように映るかもしれない。しかし実情はまったく逆。彼女たちは仕事もプライベートも、思いっきり充実して楽しむためにそのスタンスをつらぬいている。“たち”というのは、旦那さん、富士山のふもと、富士市が地元の渡邉裕介さんのこと。栗本さんとおなじ制度で数年遅く御前崎にやってきて、農業を通じて出逢い、ゴールインした。仕事上のみ別性を名乗っているのは、結婚後も夫婦別々でイチゴ農園を営んでいるからだ。

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「ふたりとも旅行が趣味なんです。新婚1年目だったかな? 『イチゴ農家は収穫期間中に海外旅行にいけるのか⁉』っていうちょっとアホなテーマをふたりで設定したんです(笑)。農業やってると長期休みとか旅行にいけないという固定観念が非常に多く、『そんなことはない!』と強烈に証明したくって。わざわざ繁忙期の1月下旬に、2泊3日で夫婦そろって韓国にいきました」

そんなアクロバティックなことができるのも、彼女たちが農作業を徹底的に効率化していればこそ。生産量、出荷量、ハウスの環境、パートさんのスキルアップとその作業量。いくつものファクターを体系的にとらえて組み立て、常に改善を図っていく。「イチゴをよく観察するのも大切ですけど、データをよく見るのも大切です」と渡邉さん。それらの結果、ふたりは年に2回、春と秋に1週間くらいの長期休暇を取って旅行にいく。週休2日がスタンダードで、いちばん忙しい真冬でも日曜はかならず休み、毎日18時までには帰宅する。やろうと思えば、繁忙期に海外だっていける。「いけますけど、まあ、あえていかない方がいいですね(笑)」。

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あるとき、栗本さんが講演を依頼された折に、その一般的な“農家”のイメージとかけ離れたライフ&ワークスタイルを壇上で話すと、ある女性が感激してこう漏らした。「すごく勇気をもらいました」。農家に嫁ぎ、1泊2日で出かけることすらかなわないんじゃないかと思い込んでいたらしい。「できないと思い込まないで、プライベートも楽しまないと、仕事も充実しないから」と伝えると、とてもよろこんでくれたという。

2.新しい世代、その次の世代

前職は全国チェーンのファミレスの店長だった渡邉さんも、やはり奥さんと似たような考えで農業と向き合っている。彼の営む〈LACO STRAWBERRY FARM〉を訪ねた。「やってることはファミレス時代といっしょです。お店がイチゴのハウスに変わっただけという感じ。御前崎に人事異動してきた、みたいな(笑)。物理的においしいイチゴがいっぱい採れて楽しいっていうのはありますけど、作業計画を立てて、年々向上させていくのが基本。あとは、イチゴとともに人としても成長していこう、みたいな自分の思いをパートさんときちんと共有しながら、手間ひまかけて、量を増やすのではなく仕事の質を高めていく。いま5年目ですけど、もうちょっとよくできると思っています」

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ファミレスと農業はおなじ。そう語るのは、彼がどれだけ真剣に前職に打ち込んでいたかの裏返しでもある。結婚して農園をひとつにしなかった理由も、ふたりにとっては自然な流れだった。「制度で補助金を受けていても、いままでの生活をやめて就農するのは、会社を起業しようって決断とまったく同レベルの話。重い決断です。だから結婚したからいっしょにやろうなんて、お互いホントにちっとも考えなかった。農家=夫婦で、みたいな空気があるので、別々でやってるのはすごく不思議がられるんですけどね」。

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そんな彼らには、共通しているもうひとつの思いがある。農業、そしてニューファーマーの未来について。栗本さんはこう言う。

「長い目で見なきゃいけないって思うんです。いま、制度とかが充実して新規就農者が増えてますけど、じゃあ2、30年先にその土地はどうなるのか。私もせっかくここで土地を与えてもらってるので、新しい農家を育てること、それからこの土地を継いでくれる人を育てるのは、最低限の義務かなって思います」

〈KURI BERRY FARM〉では、いま、30代の新規就農希望者がはたらいている。土地さえ見つかれば、2年ほどで独立を見込んでいるそうだ。そして栗本さん自身は、55歳で引退するつもりだという。土地がまだ“いい状態”のうちに次世代につないでいくべきだと。農業に定年はないが、あえて終わりを設けることでそこまで全力疾走し、バトンを早く渡す。それはとても健全で、ポジティブな思考に思える。その先はどうするつもりなのか。

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「とくにまだ決めてはないけど、最初は栽培がやりたくて就農して、規模を拡大して人を雇いはじめたら、人といっしょにイチゴを育てていくこととか、人を育んでいくことのおもしろさを知って、外部のいろんな人との出逢いもあって。ただイチゴをつくるんじゃなく、どんどん仕事の幅が増え、想像してなかったことが農業によって広がってきました。その延長で何かができるかもしれないし、ぜんぜん別の仕事でもいいかなって思っています。ここのパートで雇ってもらってもいいですしね(笑)」

ニューファーマーたちが、全国的に増えつづける耕作放棄地問題の、希望の星であるのはまちがいない。しかし、新しい世代が、さらに次の世代へうまくつなげていけなければ、2、30年後にはまた同じ問題をくりかえすことになる。自分たちがとことん楽しみ、それでいて未来のことまで考える栗本さんや渡邊さんのような考え方こそ、真の意味での「LOHAS(健康と環境にいい持続可能なライフスタイル)」と呼ばれるべきなのかもしれない。

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写真:中村ヨウイチ 文:志馬唯

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