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海のある暮らしを楽しむ。Life&Culture Web Magazine

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REPORT

潮の音にさそわれて、海辺でアートのトビラをひらく

清川泰次芸術館

もしもこの海のまちへ訪れることがあったなら、
たとえ、ビーチを満喫するひとときや
ランチタイムをすこし削ってでも、
たったひとりの画家のためだけにつくられた、
その美術館によってほしい。

きっと、帰り道には、
それまでよりすこしだけ、
豊かな気持ちになっているはずだから。

その美術館は、御前崎灯台の徒歩圏内にある。

その美術館は、御前埼灯台の徒歩圏内にある。

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セントラルパークからほど近い、ニューヨーク、マンハッタンの5番街に、カタツムリの殻のようなカタチをした奇異な建物がある。ピカソ、ゴッホ、セザンヌ、モディリアーニなど、近現代の画家の作品をコレクションする、グッゲンハイム美術館だ。一般的に名高いのは、シャガールの『誕生日』だろうか。きっとどこかで目にしたことがある人は多いと思う。

そこに、世界的アーティストたちと肩を並べて、ひとりの日本人画家の作品が永久保存されている。それがどれほどすごいことなのかは厳密にはよくわからないけれど、並大抵のことでないのは、わかる。それは、草間彌生でも、レオナール・フジタでもない。画家の名は、清川泰次。81年の生涯のほとんどをかけて「カタチのないもの」を描き続けたアーティストだった。

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彼には長年の夢があった。自身の作品を収蔵した、個人美術館、つまり、清川泰次のための美術館をつくりたい。それを実現させたのが、御前崎の海を見渡す高台にある〈清川泰次芸術館〉だ。400点もの作品を寄贈した彼が、「人生の最高の悦び」とまで呼んだその夢がかなったのは、1995年。亡くなる5年前のこと。

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おそらくもっとも地球上で認知されているであろう画家、ピカソが、絵の対象をいろんな角度から見て一つにつなぎ合わせた画法「キュビズム」を確立した1900年代あたりから、現代アートは実にバラエティに富んだ。そして清川泰次の絵には、対象物そのものがない。心の、身体のなかから浮き上がってくるイメージを、思いのままカンバスに描く。そこには作品名すらない。たとえば「painting No.0880」と、ただジャンルと番号が振られているのみだ。

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ちいさな美術館で、彼の作品の前に立つ。
真っ白なカンバスには、まるで無作為に、線、あるいは色が、ただただ描かれている。いや、描かれているというのは、適切ではないかもしれない。走っている? うごめいている? 生きている? どれも合っているようで、どれもちがう。私たちの心にカタチがないように、彼の作品にもまた、具体的なカタチはない。

アートを観るときは、少し気になる作品を見つけたら、なるべく時間をかけて鑑賞すると、それまで気づかなかった何かが見えてくることが多い。シンプルすぎて拍子抜けしてしまうような絵でも、しばらく眺めていると、胸の内に去来する感情があったりするから不思議だ。

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じっと佇んでいると、あるいは、そういえば、心がこんな色や模様をしていたことがあったかもしれない、だとか、忘れかけていた記憶のトビラがすこしずつ開き、いつかの日の心情をそっと呼び覚ましてくれるような気がする、などと、冷静になればはなはだ見当ちがいの妄想だったかなと思えることでも、その場ではすべて受け入れてくれる芸術の寛容さに気付かされて、やっぱりアートはいいものだと素直に思える。

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海をじっと眺めてみたり、散歩して空を仰いでみたりする時間もいいけれど、ここへ来ると、ただただ絵と向き合って過ごすだけの贅沢な時間を週末の選択肢に加えたくなる。海のまちのちいさな美術館には、そんな魅力があった。

写真:中村ヨウイチ 文:志馬唯

清川泰次芸術館

  • 開館日:毎週土・日
  • 開館時間:9:00-16:00
  • 併設の市民ギャラリーは、市民の創作発表の場として利用可
  • お問い合わせ 御前崎市教育委員会 社会教育課 0548-63-1129(8:15-17:00 ※土日祝除く)