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Sea Life Story's vol.22

海のまちのおいしさを巡る旅 ― The Trip For Omaezaki Gourmet ―

海のまちのおいしさを巡る旅 ― The Trip For Omaezaki Gourmet ―

そのジャンルで、最高級ランクとされるもの。

フルーツならば、やはりメロン。
魚は? 地方によってちがうけれど、
ここは「クエ」を推したい。

この2つ、贅沢なことに、
どちらも御前崎の特産品だという。

特産品というからには、
特化したおいしさがあるということだ。

ショートトリップシリーズ第6弾は、
お待ちかねのグルメ旅。

おいしさをつくる人々に出逢いに、御前崎へ。

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AROMA MELON 山下メロン園/山下 剛さん

最高級品「アローマメロン」をつくる
100年受け継がれてきた熟達の技術

「ぼくは社会に出たことがないんで、世の中のことは、よくわかりません(笑)」

〈山下メロン園〉の山下剛さんが、屈託のない笑顔でさらりと語ったその言葉は「この人のつくるメロンが、おいしくないはずはない」と思わせてくれるのに、十分すぎる説得力があった。卒業後、すぐに家業に入り、メロン一筋18年。彼の人生は、常にメロンと共にある。

「僕で3代目です。うちの園が45年ぐらい。文献を見ていくと、この遠州地方にメロン栽培が伝わったのが、ちょうど100年ぐらい前。そこからいろんな栽培法が発展して、いまのカタチになっていますね」

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メロンはメロン、どれも高級品でしょ? と十把一絡げにされがちだが、その品種や栽培法はとても多彩。なかでも一木一果、つまり1本の樹から1つの果実しか商品化しない最高級品「温室マスクメロン」にこだわって栽培しているのが、静岡県だ。あまり知られてはいないけれど、静岡は温室マスクメロンの収穫量において、全国1位を誇る。

「マスクメロンは、簡単に言うと網目のあるメロンの総称。英語で書くとMUSK。これは香りがいいということを言ってるんですね。香り高くて、おいしいという意味。熊本県や高知県のマスクメロンと、僕ら静岡がつくっているのは、タネが別物です」

その静岡で生産されている2大ブランドが、アローマメロンとクラウンメロン。山下さんのいる御前崎一帯は、アローマメロンだ。

「アローマはAROMA。やはり香り高いってことで着いた名前です。このブランド名で売り出したのが、僕が就農したころかな。ブランドメロンのなかでは、新興勢力に近い(笑)」

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御前崎一帯のメロン栽培の特徴のひとつは、ハウスの形状にあるそうだ。

「スリークォーター型といって、三角になっているハウスの屋根の中心(頂点)が、北側にずれているんです。南側の屋根の面積が広くなっていて、ハウス内の北側にあるメロンにも、きちんと日光が行き届くようにしてあるんです」

全国トップクラスの日照時間というアドバンテージを、最大限に活かせるよう進化したカタチ。1年中出荷できる体制を築き、全国1位の生産量へと昇り詰める100年の間には、さまざまな知恵と工夫があったのだろう。

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〈山下メロン園〉には11棟のハウスがあり、それぞれ8~10日ほど収穫時期をずらして栽培されている。苗植えから収穫までが3カ月ほどなので、ここにくればメロンの成長過程のすべてを見られるというわけだ。育てられたメロンの一部は、地元の人に還元しようと、直売もされている。1棟ずつ、山下さんに案内してもらった。

「温室メロンは、ベッドと呼ばれるプランターで、少量の土で育てるので、水と温度の駆け引きがスゴく難しい。メロンの網=ネットは、温度と水分量を調整してひび割れさせていくんですが、そこが農家ごとの腕の見せどころでもあります。組合で月に1回勉強会をやるんですけど、そこで教えられたとおりにしたところで、立地条件もハウスのサイズもちがうから、ウマくはいかない。おなじような肥料設計でも、やっぱり何かがちがってくる。不思議ですよね」

おなじ産地の、農家ごとのちがい。それはつくり手の“癖”のようなものだと、山下さんはいう。

「ある背丈まで育ったときに、水どのくらい与えるとか、何日目で与えるとか、自分なりのタイミングがあって。それを「1日早ぇよ」っていう人もいれば「1日遅ぇよ」っていう人もいる。温度湿度の調整で窓を開けることがあるんですが、それもどのくらい開けるかで差が出てくる。もっといえば、葉っぱの枚数を下から数えて何節目で実を付けさせるか(それ以外の脇芽は取り除く)っていう問題があって、上に行くほど面長のメロンになるし、下だと幅広になる。収穫のときにちょうど綺麗な丸になるように育つポイントが、ぼくの場合は13節目なんですが、それも農家によって前後する。全体としてはセオリーが決まっていても、過程のすこしずつの差が、最終的に影響してくるんですね」

メロンづくりは、正解のない迷路のようだ。この道18年の山下さんでさえまだ、試行錯誤を繰り返しているという。

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あらゆる果物のなかで、特に見た目が重要視されるアローマメロン。ハウスを巡りながら、その栽培の難しさやこだわりの一つひとつを、山下さんは丁寧に説明してくれた。

富士、山、白、雪といった等級があり、最高級品である富士はサイズが厳密に定められていること。等級は箱単位で決まり、自分で選別して箱詰めすること。市場価値につながるので、1日に100近く収穫するメロンのなかから、なるべく見た目のおなじものを探して揃えること。箱詰めに時間がかかるゆえに、生産できる量には上限があること。果実の頭に付くツルをきれいなT字型にするために、メロンの重みで下がってきたときは400本もある紐を縛り直すこと。いまだに一花ずつ、手作業で受粉させること。

そして当然ながら形だけではなく、味についても消費者が食べるときに一番おいしくなるよう、狙いを定めて育てているという。

「メロンって、よく百貨店のフルーツ屋さんとかの棚に飾ってあるじゃないですか。そこで何日飾っておけるかっていうのもポイントで。「追熟」といって、メロンは食べごろが近くなるにつれてネットが黄色く、実がジューシーになっていくんですけど、その期間までちゃんとコントロールするのは、なかなかできることじゃないですね」

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高級品とはいえ、後継ぎがいない問題は、メロン業界にもある。静岡では20年前に比べて1/3に減っているそうだ。ICTなどの自動管理化が進み、時代が変遷していくなかで、これからのメロン農家としてどう動いていくのか。最後に山下さんに訪ねてみた。

「まだ構想段階ですけど、若いメロン農家を指導しながら、御前崎・静岡のメロンとして取りまとめて、国内はもちろん、海外にも目を向けていきたいなと。家族経営だと、このぐらいの面積が目いっぱいになってしまう。これから生き残っていくためには、もっと技術を磨いて、周囲と団結して展開していかなきゃなと思います」

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OMAEZAKI KUE 御前崎クエ 磯料理 荒磯

贅沢の裏にある生産者のストーリー。
絶品!クエづくしのフルコース

「幻の魚。鍋の王様。刺身にすれば、フグより美味い」
クエという魚の二つ名には、最大限の賛辞がズラリと並ぶ。タイやフグほどメジャーじゃないのは、その希少性ゆえで、日本では昔から食されてきた。高級魚の代名詞でもある。

博多あたりでは、大切な客人はフグよりクエでもてなす、といわれるぐらいの贅沢品で、大相撲九州場所では横綱が口にするとか、舌の肥えた食通たちを唸らせたエピソードは数知れず。「クエ食えばほかの魚は食えん」なんて駄洒落も、クエ好きの間では定番だ。

「この辺りでは“家老”って呼んでましてね。『ご家老さましか食えん』とか、由来は諸説ありますけど、まあ、それだけ高級だったってことでしょうね」

そう教えてくれたのは、磯料理<荒磯>の大将、大石勇さん。
クエは、主に九州から関西にかけて漁獲されていて、ここ御前崎一帯がクエの獲れる最北端といわれている。

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“家老”を引き合いに出すほど昔から地元では馴染みのある食材だが、現在、御前崎でクエが食べられるのには、別の理由がある。それは、温水を利用した日本初となる“完全養殖”に成功し、市内10店舗の飲食店へ安定的に供給されているから。

「特産品にしようってことで、市外には流通しないようになってるんですよ。市場にさえ出ていない。御前崎産のクエが食べられるのは、御前崎だけ。私は昔っから天然モノも食べてますけどね、身質はほとんど変わらないですよ。餌によってホントにちがうみたいでね、養殖している『温水利用研究センター』の人たちが熱心に研究してくれてるもんですから、すごく美味しいものが手に入る」

この道42年の大将がそう言うのだから、信用できる。重ねてかなりリーズナブル(都会の“いい店”と比べたら、半値ぐらいの感覚)だから、東京や名古屋から、はるばる御前崎クエを食べに来る人が後を絶たないようだ。

「おもしろいものでね、(養殖がはじまって)最初のころに来たのは、愛知・岐阜・三重あたりの人ばかりだった。それが東京方面へ広まって、次に静岡市だとか、だんだん近くなってきて。いまようやく地元の人たちが(養殖モノを)食べるようになって、定着してきましたね。ちゃんと美味しいってことが、やっと伝わったのかもしれません。」

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クエの養殖が難しいのは、温暖な海域を好むから。近畿では冬になると、奄美まで移送して育てたりしている。御前崎では温水を利用した養殖法を確立できたのが、成功の要因となった。熟達の手つきでクエを捌きながら、大石さんが言った。

「これでだいたい2キロ前後で、3年モノです。クエってのは時間がかかるんですね。寒くなると、エサを食べなくなったりするし、稚魚まで育っても、温度か何かのきっけかで、大量に死んじゃったりする。センターの人たちが苦労してつくってくれているもんですから、ぼくら料理人も大事につかってるんです」

市内の各店では、それぞれちがった料理法を売りにしてクエを提供しているという。コース料理が食べられるのは〈荒磯〉だけ。ほかの店では、寿司などもあるようだ。

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「ウチの店のキャッチフレーズが『丸ごとクエ!』ってね(笑)。クエは捨てるところがないんです。はい。もうぜんぶ、内臓から料理にしまして。お蔭さまで、好評いただいてます」

その自慢のコースがテーブルに並んだ。前菜に、エラのから揚げ、皮のにこごり。それから胃袋の西京味噌焼き、内皮と5色の野菜の和え物。肝豆腐は、冬なので揚げ出しに。アラの煮つけ。うろこ煎餅。身の部分は、刺身を筆頭に、石焼、麹焼き、胸びれ辺りはから揚げに。

「最後は鍋ですね。下ろした骨を叩いたのを味噌と和えて、つみれにしてあります。刺身は醤油とわさびでそのまま食べるのも美味しいですが、鍋でしゃぶしゃぶにしてもらうのもお勧めです。ポン酢で食べてください。〆には雑炊を準備します」

ぷるぷる、パリパリ、ふわふわ、サクサク、もちもち。さまざまな料理に七変化したクエは、味もさることながら、食感のバリエーションが多彩で、食べ進めるよろこびがある。鍋に入っている頭はコラーゲンたっぷりで、美肌効果もありそうなところが、女性にも人気のよう。クエの奥深さを、文字通り骨の髄まで堪能させてくれる、うれしいコースだった。

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極上のしゃぶしゃぶをいただきながら、しみじみ感じ入った。クエにしてもメロンにしても、贅沢なおいしさの裏には、それだけ生産者の手間ひまがかかっているのだと。そしてそれを安価に楽しめる、御前崎のありがたさを。

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写真:朝野耕史
編集・文:志馬唯