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Sea Life Story's vol.34

海のまちのスポーツ振興に見た、地方都市の未来の光

一般社団法人しずおかスポーツプロモーション
川村 亘平さん
海のまちのスポーツ振興に見た、地方都市の未来の光

文化、グルメ、観光、産業……。
まちおこしには、様々なカタチがあるが、
成功するのは容易ではない。

今回は、「スポーツ」というジャンルにおいて、
ほぼ何もない状態からスタートしたにもかかわらず、
ナショナルチームやプロチームの誘致に次々と成功し、
一つのシーンを作りつつある、
ある団体の活動の軌跡を追った。

熱狂。白熱。興奮。日本中を熱くさせたラグビーワールドカップ2019において、ブレイブ・ブロッサムズ―日本代表―に唯一の黒星を付け、勢いそのままにワールドチャンピオンに輝いた南アフリカ代表。その圧倒的な活躍とパワフルなプレイは記憶に新しいが、彼らが“どこに滞在していたのか”覚えている人は、よほどのラグビー通か、地元の人でもない限り、そう多くはないだろう。

スポーツにおいて、特に海外渡航を含むスケジュールならなおさら、事前の準備はパフォーマンスに直結する。滞在先は、選手たちがリラックスして休養でき、練習に集中できる環境が整っていなければならない。逆を考えればわかる。もしも心が落ち着かず、準備もままならない状態で日程をこなさなければならないとしたら、結果はどうなるか。推して知るべし、説明の必要はないだろう。人々を魅了する快進撃の裏には、ほとんどの場合、最適な滞在環境の存在がある。

「最初はスポーツを通じて、まちおこしができればいいね、みたいなことを話していたんです」

そう話すのは、一般社団法人しずおかスポーツプロモーションの川村亘平さん。先のラグビーW杯における、南アフリカ代表チームの滞在先だった(ジョージア代表も滞在していた)御前崎市で、「御前崎スポーツ振興プロジェクト」を推進している主要メンバーのひとりだ。

試合のメイン会場である袋井スタジアムから数十キロのアドバンテージがあるとはいえ、都市の規模としては、近隣の浜松市や磐田市に遠く及ばないイメージのある御前崎市。メッカとして有名なウィンドサーフィンならともかく、陸の球技、ましてやナショナルチームを誘致できるポテンシャルは、どこにあったのだろう。「まずはフィールドを見てください」と川村さんに案内されるがままに、市内を一望する高台へと向かった。

表れたフィールドには、美しく平らなグリーンが広がっていた。山間にある、別世界。天然芝が織りなす平面は、人の手による造形美の素晴らしさを教えてくれる。国際規格のサッカーコートを収めても余りある、広大なサイズ。周囲にあるのは樹々のみで、他に視界をさえぎるものはなく、どこまでも抜けていくような青空が気持ちいい。

「この〈御前崎ネクスタフィールド〉を管理しているのは、静岡カントリー浜岡コース&ホテルです。ゴルフ場のための天然芝を育てる技術を、別のカタチで生かせないかという発想から、地域貢献の意味も含めてサッカーからラグビーまで可能なフィールドをつくりました」

つい先日も、1か月ほどの間にサッカーチームが3チーム、立て続けにキャンプインしていたそうだ。見ると、わずかに‟練習の跡”が見受けられるものの、芝はとても綺麗な状態を維持している。「その耐久性も、各方面のチームから評価をいただいています」と川村さん。聞けばラグビーの代表団だけではなく、複数のJリーグやWEリーグといったプロサッカーチームのキャンプ地としても、誘致に成功しているという。

「このフィールドもそうですが、御前崎には運動場や陸上競技場、ゴルフ場や野球場、テニスコートや体育館まで、あらゆるスポーツに対応できる環境が整っています。もとは観光地として栄えたまちなので、宿泊施設も多い。何より、日照時間が日本屈指であることや温暖な気候であることが、キャンプ地として適しているんです」

活動のきっかけは、市と共同で地方創生推進交付金を活用して3年間実施した「御前崎スポーツ振興プロジェクト」。限られた期間で、先述したビッグチームの誘致に成功し、それを引き継ぐ形で一般社団法人を設立した。これまでにプロチームのキャンプ誘致だけではなく、小中高生のスポーツ大会や、静岡大学と共同で企画したサイクリングなどのフィールドワークイベント、北海道と静岡をつなぐ都市間での交流イベントの開催など、“スポーツと御前崎”を基盤に、幅広い活動を展開している。粘り強い営業活動を重ね、各方面とつながり、関係を築いてきたのだという。

大会やイベントの運営はもちろん、プロチームの誘致には様々なハードルがある。トレーニング施設や練習場、宿泊施設の手配に始まり、滞在中の栄養管理をふまえた食事メニューの提案、先方からの要望を踏まえた改善、警備やメディアとのやりとりなど、運営サイドは多忙を極める。川村さんは、「全てが印象深いが、中でも胸に残っているのは、サッカーオリンピック日本代表とのエピソードです」と語ってくれた。

「コロナ禍だったので、人が集まりすぎないよう、全てのスケジュールが極秘で進められました。接触は避けなければならないのですが、せっかくお越しいただけるのだから、地域の子どもたちとどうにか交流してもらえる方法を模索していたんです。すると代表チームサイドから『何か地域に貢献できることはありませんか』と仰ってくださり、とても嬉しかったです。最終的に、地元の子どもたちとビデオレターのやり取りをしていただけて、たくさんの子どもに喜んでもらえました。これからも、スポーツを通じてまちに貢献し、御前崎に注目してもらえるような企画だとか、イベント、チームを呼び込めたらなと思っています」

御前崎は、決して大きなまちではない。どちらかというと小さい、海や山といった自然の美しさが際立つ、全国によくある田舎町だ。しかし、川村さんたちのここ数年の活動は、そんな地方都市に勇気を与えてくれる。大切なのは、まず行動を起こすことなのだと。

「このプロジェクトが運営できているのも、地元の関係組織や宿泊施設の皆さん、体育施設などの協力のおかげです」

地域を思い、献身する。その地道な積み重ねが、子どもたちに夢を与え、まちの未来に光を与える。一般社団法人しずおかスポーツプロモーションの実績は、そんな明るい連鎖の片鱗を、確かに感じさせてくれた。

写真:朝野耕史 文:UMICO編集部